【質問に答えます】自分のブラックボックス(感情が反応する原因)の内省のコツを知りたい

性の健康イニシアチブ代表の柳田です。講演や研修の際に出た質問に答える記事を不定期に書いていきたいと思います。今日は、7月22日に開催された東京都助産師会いのちの教育委員会主催研修会の事後アンケートで挙げていただいた質問を取り上げます。

*ブログで回答することや質問文をブログに全文掲載することの承諾を得たうえで記事化しています。

ーーー質問ーーー
先生の講義を聞いて、自分の心の因数分解をすることが、相手の心への理解につながる気がしたのですが、ブラックボックスの内省のコツや方法などありましたら教えていただきたいです。
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研修の中でお話したこと

同研修は「対人援助職のアティチュード」がテーマでした。アティチュードとは「価値観に裏打ちされた態度」のことを指します。研修内でも例として挙げましたが、対人援助者である自分は「人生は結婚してこそ素晴らしいものになる」という価値観を持っているが、援助対象者が「結婚には興味がなく、生涯未婚でいい」と思っている場合に、「何となくイライラしてしまう」「援助対象者を説得しそうになる(あるいは実際にしてしまう)」というのが、「アティチュード=価値観に裏打ちされた態度」です。

ブラックボックスは、「自分の感情の針が振れる原因となる考えや価値観」だと紹介しました。
上記の例の場合だと、「何となくイライラしてしまう」「援助対象者を説得しそうになる(あるいは実際にしてしまう)」という反応を引き起こす原因となる考えや価値観ということになります。

そして、自分はどのような(感情の針が振れるほどの)考えや価値観を持っているのか、そもそもそれは何に由来するのか(幼少期のしかじかの経験、学生の時の○○な経験、など)を自分の中で整理しておけるといいですと伝えました。

ブラックボックスの内省のコツ

コツというほどのものではないかもしれませんが、最初の一歩として、自分の感情の針が振れる瞬間に敏感になることだと思います。上記の例で言えば、「結婚には興味がなく、生涯未婚でいい」という支援対象者の言動や価値観に触れた時に感情の針が振れているわけです。その時にその感覚を見逃さないで「あ、今、自分の感情の針が振れたな」と覚えておきます。

終業後など一人でゆっくりと物事を考えられるタイミングが来たら、感情の針が振れた瞬間を思い出しつつ、どういう気持ち(「許せない」「悲しい」など)だったのか、なぜそんな気持ちになるのか、その気持ちになるような自分の価値観(「人生は結婚してこそ素晴らしいものになる」)は何に由来するのか、といったことを言葉にしていきます。頭で考えるだけでなく、紙に書きながら進めるといいと思います。

事実と解釈を分ける重要性

「事実」と「解釈・判断」を分けて捉えられるように訓練することが、アティチュードを磨くためには欠かせません。結婚している/していないは単なる事実でしかなく、そこには優劣や良し悪し(といった判断)は本来ないはずです。対人援助者が「事実」と「解釈・判断」をセットで考える態度から抜けられないと、「援助者の価値観において良い言動をする人はよい人で、援助者の価値観において良くない言動をする人はよくない人」という前提で援助活動が始まることになります。「中絶は好ましくない」という価値観を持っている援助者のところに、中絶を希望する方が来た場合、その方は安心安全な援助を受けられるでしょうか?アティチュード(態度)を磨くことの重要性がこの一例からも分かっていただけると思います。

「絶対に良くないこと(=他者の権利や主体性を侵害する言動)以外は良くないものはほとんどない」という視点に立てると、物事の見え方はずいぶん変わると思います。またその視点は、本当の意味で多様性を尊重する態度にもつながっていくと思います。

アティチュードが変われば対人援助の実践は変わります。安心安全な援助を提供するために、「事実」と「解釈・判断」を分けて考える姿勢を身につけたいものです。そのためにブラックボックス(=自分の感情の針が振れる原因となる考えや価値観)について考えてみることはとても大切です。素晴らしいご質問ありがとうございました。